デリバリーのソイバーガーショップ登場(青森市浪岡)

ボリューム満点なのに、低カロリー。
大豆ミートを使ったソイバーガーを
デリバリー&移動販売するハンバーガー店登場
 
 
青森市浪岡地区の美容院で「知ってます? 近所に、おいしいハンバーガー屋さんができたんですよ」と教えてもらい、その足でお店に向かったのは、まだ雪がどっさりと積もっていた真冬のこと。
 
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その店のハンバーガーのパテは、肉ではなく、ソイミートなのだといいます。これまでハンバーガーショップすらなかったこの地に、いきなりヘルシー志向の大豆(ソイ)ミートのハンバーガーを売る店ができたというのだからニュースです。どんな人が営んでいるのか、どんなハンバーガーなのか、確かめに、店を訪ねました。
実際に買って食べてみると、見た目以上に食べごたえがあり、バンズとパテと野菜のバランスがよくて、おいしいソイバーガーでした。肉でないといわれなければ、おそらく気づかない食感と味です。浪岡地区内なら、2個から配達してくれるというサービスや、オーナーの曇りのない笑顔も印象的で、いつかじっくりお話を聞いてみたいと思ったのです。
 
 
そして、ようやく取材に伺うことができたのは、雪がすっかり消えてからでした。
 
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雪田隼人さん(36歳)が営む『バーガー屋 Niche(ニッチ)』は、青森市浪岡地区の古い民家の中にあります。犬のトリミングショップ、英会話教室、そしてNicheの3事業主で一軒の家をシェアしており、Nicheはかつて台所であったスペースを厨房仕様に改装して営業しています。
 
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雪田さんは浪岡地区の出身。20代半ばまでは青森市のシルバージュエリーの店で働いていました。オーナーが博識で趣味の幅も広かったため、いろいろな話が聞けて、刺激的で楽しい職場だったといいます。
「ただ、その頃、コーヒーがすごく好きになって、コーヒーを淹れる仕事もいいなぁと、漠然と思っていたんです」
その何気ない思いつきが、日を追うに連れ膨らんでいき、“飲食店をやりたい”という明確な意志に変わっていきました。
しかし、未経験者であるうえに、まとまった資金もない、0からのスタート。そこで、まずは給与のいい県外のアルバイトに就いてお金を貯め、それから飲食店で経験を積むという計画を立てたのです。
オーナーに決意を告げ、店を辞めて、最初に向かったのは名古屋。しかし、半年間働いてみたものの、どうもここではない気がする…。そこで、いったん青森に戻り、今度は東京へ。
 
 
「もちろん、上京したところで、すぐに条件のいいアルバイトが見つかったわけではありません。知人宅に居候させてもらって、2〜3ヵ月経った頃、ようやく採用されたのが六本木の森美術館の警備員の仕事でした」
森美術館といえば、六本木ヒルズ森タワー53階にある先端アートの発信地。開催される企画展はいつも注目を集め、話題になっている美術館です。
「このバイトに巡り会えたのは、本当にラッキーでした。森美術館でさまざまなアートに触れられたことは、いろんな意味で自分の糧、財産になったと思っています」
 
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じつは、もともと雪田さんは、アートや工芸にとても興味がありました。青森で勤めていたお店のオーナーの影響だったといいます。そのこともあって、最先端かつ一流の作品を日々眺められる職場は、最高の環境であり、そこで出会った多くのものから、自分が好きな世界、自分が目指す方向も見えてきたのだといいます。
 
 
「勤務時間はハードでしたが、本当に楽しい仕事でした。でも、あくまで目的は資金を貯めることだったので、ある程度目標を達成した3年で切りをつけました」
 
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Nicheの空きスペースに置かれたトレーニングベンチ。体調管理が個人事業主の基本です。近隣の移動や配達には、健康のこと、燃料の節約を兼ねて、自転車を活用。
 
 
そして、ようやく飲食店のアルバイトを探し始め、人気のサンドイッチハウスで働くことが決まりました。30歳での飲食業界デビューです。
「バイトを始めて1週間後、系列店のデリバリーのハンバーガーショップに配置換えになりました。焼き立てのハンバーガーを配達する店で、平日でも200個以上は売れるので、営業時間中はずっと、焼き上げては配達し、焼き上げては配達し、を繰り返す毎日でした」
ショップの営業時間は午前9時半から午後10時まで。少ない人数で、注文、製造、配達のすべてをこなすハードワーク。その仕事のペースにようやく慣れた1年後、今度はハンバーガーのレストラン部門に移動が決まりました。
 
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「注文が入ったら、必ず他のスタッフとペアを組んで作業をするしくみでした。フィリングを用意し、バンズとパテを同時に焼き始めて、タイミングを合わせて焼き上げ、同時に、つけ合わせのフライドポテトも揚げ終わらなくてはなりません。とにかく速くしろ、スピードをあげろと先輩があおるので、ついていくのに必死でした」
店長でもある先輩は年下で、アルバイト仲間は学生でした。それでも、自分が最年長であることなど気にするひまもありません。未経験者なのだから、吸収できることはすべて吸収して、先につなげたい。あるのは、その思いだけでした。
「店長が厳しく指導して、ハードルを上げてくれたお陰で、平日の倍くらいの注文数になる休日でも、パニックにならずに段取りを組めるようになりました。いまはあの体験がとても貴重だったと思っています」
あの修羅場のような厨房での作業を乗り越えられたのだから大丈夫、自分にも店がやれる、と自信がついたといいます。
その職場で1年を過ごした後、雪田さんはこのステップに区切りをつけ、次のバイト先を探すことにしました。
 
 
「東京に行って飲食関係の仕事を始めてみて、アレルギーの人が多いのに驚いたし、食べたくても食べられないものがあるって気の毒だなぁと思っていたんです。だから、次のバイト先はオーガニック系のハンバーガーショップを選びました。食材の選び方や作り方を勉強したいと思ったんです」
土日はハンバーガーショップへ、平日は資金稼ぎのために携帯電話の室内アンテナ設置のアルバイトへと通う日々。ハンバーガーショップでは接客も経験し、ドリンクの知識も増やして、開店計画は着々と進んで行きました。
 
 
そうして、雪田さんが地元に戻ってきたのは、2010年11月。
「当初は、地元産の野菜や牛肉を使ったハンバーガーを製造、販売するつもりでした。そんななか、店を始めるにあたり、仕入れのことなどを相談にうかがったお店のオーナーさんから、ソイミートを使ったハンバーガーをつくってみないかというご提案をいただいたんです」
2011年5月初旬のこと。その店は、青森市にある老舗の自然食品店『あおぞら』。雪田さんがオーガニック系のハンバーガーショップで働いた経験を買われての提案でした。
 
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パテの材料となるソイミートとは、大豆からつくられた肉の代替品で、ベジタリアンをはじめ、肉食制限やダイエット中の人向けにつくられているもの。Nicheのパテには、挽肉タイプとソーセージタイプの両方を使っています。
 
 
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「早速、試作を始めて、パテの味と食感が『これで決まりだな』と思ったところで、あおぞらのオーナーさんに試食していただきました。一回目で『いいんじゃない』とOKが出て、あおぞらさんが出店するイベントで販売させていただけることになったんです」
 
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こうして完成したNicheのソイバーガーは、「冷めてもおいしい」ことを前提にした自慢のレシピです。
パテは雪田さんのオリジナルですが、バンズは現在、授産施設のベーカリー『パン工場つきみの』にお願いして焼いてもらっています。全粒粉やライ麦の入った風味豊かなバンズは、ソイミートのパテととても相性がよく、評判がいいのだとか。ちなみに、バンズ、パテ、マヨネーズには卵が使われていません。
 
「一人で作業をしますから、大量のソイバーガーをつくるのに、東京時代のノウハウを全面的に生かすことができません。できるだけスピーディに、食材の無駄を出さずにつくる方法を模索しながら進んできました」
 
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几帳面な性格が感じられる、きちんと片付いた厨房。そして、動線も考え尽くされた一連の工程には無駄がなく、流れるように作業が続いて行きます。
 
 
依頼を受けて5月初旬に試作を始め、8月には、青森市の合浦公園で開催された『ハワイアンデー』というイベントに、あおぞらのブースで参加し、初めてソイバーガーの対面販売を経験しました。
 
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「目の前で、お客さまの生の反応を知ることができて、とてもいい経験になりました。きちんと説明をして、コンセプトをわかっていただけば、やや高めの価格でも納得して買ってくださるんだな、と」
そして、このイベントで好評だったことをきっかけに、あおぞらで週に一度、土曜日にNicheのソイバーガーを販売してもらえることが決まったのです。販売は現在も続いています。
また、イベント参加をきっかけに、一度につくれるソイバーガーの数の限界もわかって、製造工程の見直しをすることもできました。そして、一年が経ち、2度目に参加したハワイアンデー終了後、雪田さんは開店に向けて本腰を入れ、地元で店舗の物件探しを始めたのです。
 
販売は当面ハンバーガーだけ、それもデリバリーがメインと決めていたので、広い店舗は必要ありません。
 
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「自分が中学生のとき、シェイクを売ってる小さな路面店があったんです。帰郷してから前を通ったら、その建物がまだあったので、厨房施設もあるはずだし、ここが借りられないかなと、同じ敷地内のトリミングショップに、管理している不動産屋さんを聞きにいきました。そしたら、その建物は借りている人がいるから、よければ、うちの余っているスペースをシェアしないかと言っていただいたんです」
一軒を丸ごと借りていたトリミングショップのオーナーが家主の了承を得た後、すぐに改装工事を開始。雪田さんはそれまで生活のために続けていたアルバイトを辞め、ハンバーガーショップの経営で生計を立てる道へと踏み出したのです。
 
開店は2012年12月17日。
 
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どうしてよりにもよって、北国の人の動きが鈍る冬に開店したのかを尋ねました。
 
「春はみんな忙しいから、その時期までに軌道にのせて、あちこち配達できるよう準備しておきたかったんです。そうはいっても、宣伝があまりうまくないので、まだまだNicheの存在を知っていただけていないのが実情ですけど(笑)」
近隣の病院や幼稚園、商店などにフライヤー持参で営業に出かけ、少しずつ認知度を上げる努力を続けています。現在、浪岡地区内に限り、ハンバーガー2個の注文から配達していますが、その他の近隣地域でも、数や価格をご相談させていただいた上で、配達が可能な場合もあるということです。
 
この日は、リピーターである近所の美容室にデリバリー。ソイバーガーを受け取っているヘアスタイリストの女性は、じつは雪田さんの幼なじみで、最近この美容室で働き始めたばかり。配達までは、お互いそれとは知らずに、偶然、20数年ぶりで再会したといいます。
 
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今後は、音楽イベントや、屋外イベントに積極的に出店して、外での販売を増やしていく予定だとか。
3月末には、黒石市にある、蔵を活用した多目的スペース「音蔵こみせん」で開催された音楽イベント『蔵ふぇす。Vol.2』に出店。ソイバーガーは出演者、来場者それぞれに好評で完売し、次回4月27日(土)開催の同イベントにも出店予定だといいます。
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3月末に開催された『蔵フェス』会場での販売風景。笑顔で、完売。
 
 
5月6日(月・祝)には、『手×作  2話 〜テカケテツクル〜』(日野建ホーム青森展示場)に出店。8月17日(土)、18日(日)には、東津軽郡蓬田村で開催される『夏の工芸学校2013』(文化伝承館/旧広瀬小学校)にも出店します。
 
こうして、よりアクティブになったNicheに、最近、心強い助っ人ができました。移動販売車です。ボディペイントが完成するGW以降、この車で、県内あちらこちらを駆け巡ります。車のナンバーは21(ニッチ)。
 
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「店のロゴデザインをしてくれたのは、東京在住のグラフィックデザイナーの友人です。店名を提案してくれたのも彼女。Nicheには、巣って意味もあるんだと言っていました」
北欧のデザインが好きな雪田さんの嗜好を繁栄したロゴ。そして、そのロゴを中心にデザインされたペイントを施した移動販売車が、あちらこちらに出没するのは間もなくです。
というわけで、今後は、移動販売車での営業のために、店を空ける時間が増えるかもしれません。デリバリーのみならず、店舗での購入をご希望の方も、とりあえず電話での事前確認をお勧めします。
 
 
現在、Nicheはデリバリー中心ですが、ゆくゆくはイートインスペースのある店舗を構えたい。家族連れをはじめ、老若男女が集える店をつくりたい。それが雪田さんの最終的な夢です。
大好きなコーヒーも、地元産牛肉を使ったハンバーガーも、ちょっとよそでは見かけない変わったフライドポテトも、出したいメニュー、つくりたいもの、食べてもらいたいものはたくさんあります。
 
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「帰郷してからできた新たな友人たちが、『うちの野菜はおいしいから使ってくれよ』とか、『一緒にマルシェに出店しようよ』とか、声をかけてくれるのがうれしくて。みんな同世代で、同じ時期に新しいことを始めていたりして、将来の夢を語れる仲間です。彼らとつながることで、どんどん輪が広がっていく気がしています。
このところ、中学や高校の同級生たちも、地元で次々と新しいことを始めていて、とても刺激を受けるし、一緒に何かできそうなのが、すごくうれしいです」
いまはとりあえず、生でもおいしいという友人のアスパラガスをぜひともソイバーガーに使ってみたい、と笑顔で語る雪田さん。ちなみに、その友人は、農家とミュージシャンの二足のわらじを履いているとか。
 
自分の仕事に誇りをもって、好きなことも続けて、がんばっている仲間たち。Nicheは、そういう素敵な仲間の集まる場所に、すでになり始めているのかもしれません。
 
 
 
バーガー屋 Niche/ニッチ
 
 
 
 
 
撮影/成田 亮
画像提供(ハワイアンデー、蔵ふぇす、移動販売車)/雪田隼人
撮影協力/Hap Garden 青森市浪岡浪岡細田25-2   Tel  0172-62-9067