ミラクルなコンサートでした♫
ウォン・ウィンツァン ピアノコンサート
「包容 〜つつみあう愛〜」は、
自然と呼応しあう不思議に満ちていました
6月23日、日曜日の午後に訪ねたのは、青森市の青森公立大学のキャンパス内に建つ国際交流ハウス。木立に溶け込む木造のシックな建物です。
八角形のホールには、グランドピアノを囲むように客席が設えられていました。窓の外には瑞々しい緑の葉を抱いた木々。木漏れ日が描き出す緑の美しいグラデーションに囲まれた最高のロケーションです。
演奏中の撮影は禁止なので、写真はありませんが、ウォンさんは白のパンツとTシャツに、グレイッシュなアクアブルーのジャケットという爽やかなスタイルで登場。穏やかながら凛とした空気をまとわれていました。
コンサートは、一部がオリジナル、休憩をはさんで、二部はクラシックの演奏という構成でした。ウォンさんご自身が、楽曲の解説を少しなさってから演奏をスタート。ここから、少しずつ不思議なことが始まります。
最初の2曲の演奏を終え、次の楽曲について、「自分が60歳になり、ここからが人生の折り返し地点だなと思ってつくった曲(『旅のはじめに』)です。その次は、僕の作品の中ではかなり明るい曲(『夏の風車』)で、まさに子どもの歓声が聞こえる感じ」と説明されました。
そして、『旅のはじめに』を弾き始めた途端、ふいに窓の外から愛らしい鳥のさえずりが聞こえてきたのです。一瞬、演出効果の音声なのかと思ったほど、絶妙のタイミングでした。そして、そのさえずりは曲が終わるまでずっと続いていました。
それだけではありません。次の『夏の風車』に移ろうというとき、今度は涼しげな蝉の声が聴こえてきたのです。ウォンさんが会場の聴衆にその声の正体を尋ねると、“蝦夷春蝉”だと教えてくださった方がいました。この蝉もまた、曲の間だけずっと鳴いていたのです。
青森でのコンサートの前に、福島県の南相馬で演奏されてきたというウォンさん。「南相馬でも、青森でも、演奏する際に思うことはひとつです。過去の悲しみや未来への不安をしばし忘れて、BE HERE NOW、いまここにいることだけを感じて、ゆったりリラックスしてください」と、おっしゃいました。
そして、鳥の声も蝉の声もなく、静寂の中に、ただピアノの音色だけが響き始めました。『夏、祈ったこと』と『無限のなぎさ』という2曲です。
一部の最後に『Bell Tree Song』という曲を演奏されたのですが、その前に「これは鈴木さんの歌です。ちなみに、私の妻の旧姓は鈴木です」とユーモアたっぷりに語ってくださったので、旋律がずーっと「すずきさーん、すずきさーん」と聴こえてしまいました(笑)。
二部は、なんと、大好きなサティと、ドビュッシー。そして、アンコールが、これまた大好きなバッハ。幸せでした。
二部の最後、アンコールの前に演奏されたのが『月の音階』という即興演奏曲。奇しくも、この日はスーパームーン。その一致にもわくわくしつつ、聴いたこの曲に惹かれ、同タイトルのCDを購入し、日付とサインをお願いしました。
夜、窓の外の月を眺めながら、何度も何度もこのCDを聴いて、幸福な気持ちに浸ったまま、眠りにつくことができました。
コンサートの途中、ウォンさんが「手放すことの大切さみたいなものを感じているんです」とおっしゃっていたのが印象的でした。
暮らしも、生き方も、心の中も、できるだけシンプルでありたいと思いながら、なかなか実践はできないものです。それでも、いっとき音楽に心身を浸し、没頭するだけで、ずいぶんと心が平穏になるものだと実感した一日でした。
ウォンさんの音楽が好きで好きでたまらない一人の女性の情熱から、青森で開催されるようになったコンサートも、今年で3回目。本当に叶えたい夢は、必ず実現するものなのだと、勇気をもらえた日でもありました。
ウォン・ウィンツァンさんの音楽を未体験の方は、ぜひ一度、ふれてみていただきたいと思います。